東洋医学的なアプローチ 漢方

歯科病変における漢方治療

@歯周病の漢方治療
歯周病は、口だけの病気ではなく、全身の状態、免疫力の低下などにも関係が深く、口腔疾患の代表的なものです。
中医学では、歯周病の発生原因として口腔衛生管理不足があるが、

  1. 飲食障害による胃腸積熱型(炎症傾向の強いタイプが多い)
  2. 腎虚型(老化型歯周病タイプが多い)〜腎元不足による歯槽骨の脆弱化
  3. 気血不足型(歯肉の炎症の少ないタイプが多い〜)気血不足による歯肉の栄養障害、

などと考えられています。
したがって、歯周治療や口腔衛生管理指導など局部の治療に加えて、以下の全身を治療していくことは、再発予防に努める上でとても有効です。

■胃腸積熱型(炎症傾向の強いタイプが多い)
 中医学では経絡という内臓の名前がついた12本のツボが流れる経路があるとされていますが、大腸、胃の経絡は、それぞれ、上下の歯肉をとおります。そのため、飲食の不規則、辛いもの・甘い物・油っこいものの過食やお酒の飲みすぎなどによって生じた胃腸の熱が、火に変化し上昇すると、歯肉の発赤や腫脹、歯痛、歯出血などの症状が現れ、歯周炎の急性発作を起こします、。

【症状】
歯肉の発赤や腫脹、歯痛、歯出血、それに伴う口臭、口渇、冷たい物を好む、便秘、舌質は紅、舌苔は黄で乾燥などの症状。

【処方】
・黄連解毒湯+白虎加人参湯
・三黄瀉心湯+白虎加人参湯(便秘を伴う場合)

■腎虚型(老化型歯周病タイプが多い)
 中医学では、腎は精を蔵し、髄を生じ、骨を養い、歯は骨の余りで、骨髄はまた歯を養うとされています。つまり、腎は、老化とともに、力が弱り、そのため、白髪になったり、歯がぬけたり、冷えたり、と若いときには感じないような老化現象が起こるのです。つまり、老化や久病などによって腎精を消耗し、歯槽骨に充分な栄養を与えなく、歯槽、歯骨の萎縮、歯根暴露、歯の動揺か脱落などの症状が現れたり、慢性歯周病の方でも老化が原因であることも多いのです。

【症状】
歯槽、歯槽膿漏、歯骨の萎縮、歯根暴露、歯の動揺か脱落、それに伴う足腰の脱力感や痛み、手足のほてり、口内や咽喉の乾燥感、のぼせ、舌質は紅、舌苔は少ないまたは足腰の脱力感や痛み、寒がり、手足の冷え、舌質は淡暗、舌苔は白などの症状。

【処方】
・六味地黄丸(手足のほてり、口内や咽喉の乾燥感、のぼせ、舌質は紅、舌苔は少ない)
・六味地黄丸+立效散(痛みを伴う場合)
・八味地黄丸(寒がり、手足の冷え、舌質は淡暗、舌苔は白)
・八味地黄丸+立效散または麻黄附子細辛湯(痛みを伴う場合)

■気血不足型(歯肉の炎症の少ないタイプが多い)
 脾は肌肉を主り、口に開竅します。中医学でいう脾臓は、胃腸の動きを助け。、消化運搬の働きや、肌に養分を養う働きがあるとされています。そして、口と非常に密接であるため、脾胃虚弱になると、肌肉に充分な栄養を与えなく、歯肉の栄養障害を起ります。
【症状】
歯齦肉が白色、歯齦萎縮、歯齦出血、歯肉膿瘍、それに伴う疲労倦怠感、元気がない、治療に対する抵抗力が低下し、症状が長引く、不眠、立ちくらみなどの症状。

【処方】
・補中益気湯
・十全大補湯(貧血傾向、めまい立ち暗みなど)。

■歯周病の漢方治療

使用目標 処方
胃腸積熱型
(炎症の強いタイプ)
歯肉の発赤や腫脹、歯痛、
歯出血
・口臭、口渇、冷たい物を好む、便秘
・舌質は紅、舌苔は黄で乾燥
・黄連解毒湯+白虎加人参湯
・三黄瀉心湯+白虎加人参湯
(便秘を伴う場合)
腎虚型
(老化型歯周病タイプ)
歯槽、歯槽膿漏、歯骨の萎縮、歯根暴露、歯の動揺か脱落 ・足腰の脱力感や痛み、手足のほてり、のぼせ
・口内や咽喉の乾燥感
・舌質は紅、舌苔は少ない
・六味地黄丸
・足腰の脱力感や痛み、寒がり、手足の冷え
・舌質は淡暗、舌苔は白など。
・八味地黄丸
気血不足型
(炎症の少ないタイプ)
歯齦肉が白色、歯齦萎縮、
歯齦出血、歯肉膿瘍
・治療に対する抵抗力が低下し、症状が長引く
・疲労倦怠感、元気がない、不眠、立ち暗み
・舌質は淡白・胖大、舌苔は薄白
・補中益気湯
・十全大補湯
(貧血傾向、立ち暗みを伴う)

A歯痛の漢方治療
中医学では、歯痛の発作は、歯周病、虫歯、老化などの原因で起りやすいと考えられます。漢方では、歯痛は寒・熱・虚・実に分けられている。
熱のタイプは温かい物が嫌う、冷やすと痛みが軽減する特徴があり、炎症を伴う歯痛が多く、寒のタイプは冷たい物が嫌い、温めると痛みが軽減する特徴があり、炎症を伴わない歯痛が多いので、それを見極めて、治療していくこととなります。

■歯痛の漢方治療

使用目標 処方
特徴 伴う症状 舌診


・歯痛、痛みが頭へ放散する
・歯が寒冷にあたると痛くなる
・悪寒、口渇がない、鼻づまり、頭痛など。 舌淡紅
苔薄白
・葛根湯(頭痛、肩こりを
伴う初期の歯痛に)
・川?茶調散(頭痛がひどい)
・立効散(痛みが強い)
・麻黄附子細辛湯


・歯痛が激しい
・歯茎の発赤や腫脹
・冷やすと痛みが軽減する
・発熱、頭痛、口渇、便秘、尿黄など。 舌尖紅
苔薄黄
・清上防風湯
・清上防風湯合三黄潟心湯
(便秘がある場合)
・歯痛が激しい
・歯肉の発赤や腫脹
・口臭が強い、赤ら顔、口内や顔面の熱感
・口渇、冷たいものを好む
・便秘、尿量が少なく黄色など。
舌紅
苔黄厚膩
乾燥
・黄連解毒湯合白虎加人参湯 
・三黄瀉心湯合白虎加人参湯


・痛は激痛ではなくシクシク痛み
・歯齦の軽度の発紅や腫脹
・歯肉の病変がない、歯根が揺れ易い
・ものを噛むのが無カで痛む
・腰や下肢の脱カ感、手足のほてり、のぼせ
・口内や咽喉の乾燥感、めまい、耳鳴りなど。
舌紅
苔少乾燥
・六味地黄丸
・六味丸合立効散
    ・腰や下肢の脱力感、寒がり、手足の冷え
・頻尿、めまい、耳鳴り、脱毛など。
舌淡暗
苔白
・八味地黄丸
・八味地黄丸+立效散
  ・痛は激痛ではなくシクシク痛み
・歯齦の発紅はない
・顔色が悪い、疲労倦怠感、元気がない
・声が小さい、息切れ、自汗など。
舌淡胖大
苔薄白
・補中益気湯
・補中益気湯+四物湯

B歯周病とドライマウス
歯周病とドライマウス(口腔乾燥症)は密接な関係があります。お口の中が乾燥すると、細菌が繁殖し易くなり、歯周病や虫歯、口臭、口内炎が多発します。したがって、歯周病を治療すると同時に口腔乾燥症の治療も非常に重要となってきます。漢方では、口腔乾燥症の治療には以下の分類をし、麦門冬湯から始め、様々な処方を用いられています。

■口腔乾燥症の漢方治療

使用目標 処方
特徴 伴う症状 舌診
・口渇、口腔乾燥
・口渇があって冷飲を好む
・口が渇いて多く飲む。
・発熱(高熱)、多汗
・顔面潮紅、イライラ
・頭痛、便秘など
舌紅
苔黄・乾燥
・白虎加人参湯
・白虎加人参湯+黄連解毒湯(イライラ・不眠が強い時)
・白虎加人参湯+桃核承気湯(発熱、口渇が強い時)
・白虎加人参湯+三黄瀉心湯
(口渇が強く、イライラ、便秘がある時、口内炎を伴う)
・白虎加人参湯+麦門冬湯
(口乾、口渇がひどい、空咳、痰が少ない、鼻咽部の乾燥感)
・口渇より口腔乾燥が強い ・空咳
・痰が少なく出しにくい
・鼻や唇の乾燥
舌紅
苔少・乾燥
・麦門冬湯
・麦門冬湯+補中益気湯(疲労倦怠感、食欲不振を伴う)
・麦門冬湯+清暑益気湯
(暑気あたり、口渇、自汗、イライラ、疲労倦怠感、食欲不振を伴う)
その他: 
麦門冬湯+十全大補湯 麦門冬湯+人参養栄湯など
・口腔乾燥、夜間加重
・冷たい水を飲みたがる
・足腰だるい、手足のほてり
・イライラ、不眠、眩暈
耳鳴、盗汗
舌紅
苔少乾燥
・六味地黄丸
・六味地黄丸+麦門冬湯
・六味地黄丸+白虎加人参湯
(糖尿病で口渇、多飲、多食、多尿)
・口腔乾燥、口渇、
・水を飲みたがらない
・飲むとしたら熱飲が好み
・顔色は黄白色
・寒がり、手足の冷え
・食欲不振、倦怠感
・浮腫、軟便、尿色が薄い。
舌質は淡紫、苔白乾燥 ・真武湯+麦門冬湯  
・八味地黄丸
(口渇・夜間強い、夜間頻尿、足腰だるい、耳鳴、難聴など)
・人参湯(腹満冷痛、温めると気持ちがいい、軟便など)
・口渇、口腔乾燥、
・水を飲みたくない、
・飲んだ後不快感が出る、または水を飲むとすぐ吐く。
・動悸、腹満
・体が重い、浮腫、小便不利
舌苔は滑/膩 ・五苓散(水を飲むとすぐ吐く、尿量減少)
・苓桂朮甘湯+麦門冬湯

※1腎炎・ネフローゼなどの場合に尿の出が悪くなり、尿量減少、口渇のあるもの:五苓散、四苓湯。
※2膀胱炎で口渇、尿量減少、イライラ・不眠、排尿痛、頻尿のある場合:猪苓湯。
※?血がある時は駆?血剤:サフラン 桂枝茯苓丸 桃核承気湯などと合方します。

C口内炎の漢方治療
口内炎は漢方では、全身のバランスの調整、臓腑の病変の治療などによって、口内炎の改善、再発を予防することが出来ます。
口内炎は神経症の人、あるいは自律神経失調症の人によく見られ、精神的ストレスによって誘発したり増強したりすることが多く、臨床証候によって漢方エキス剤を投与ですればよい治療効果が得られます。

■口内炎の漢方治療

特徴 伴う症状 舌診 処方
・口内の粘膜が赤く腫れ、
・痛みが激しい、
・舌尖に小さい多数の点状潰瘍があり、
焼けるように痛む
・胸の煩悶感、精神不安、
・いらいら、不眠、
・口渇、便秘、など
舌尖は紅
舌苔は薄黄
・黄連解毒湯
・三黄瀉心湯(便秘を伴う)
・半夏潟心湯(繰り返し、慢性化)
・清心蓮子飲(排尿痛、尿が黄色)
・口腔粘膜や歯肉は充血、腫脹
・びらんや潰瘍があり
・灼熱感をともなう激烈な痛み
・赤ら顔
・口中の熱感、口臭、口渇、流挺、便秘など
舌質は紅、
舌苔は黄・黄膩
・白虎加人参湯+黄連解毒湯
(炎症や熱感が強い場合)
・桃核承気湯(便秘を伴う)
・精神的なストレスや情緒の変化により
・口腔粘膜の炎症、潰瘍、痛みなどが繰り返される
・あるいは口内炎か月経の前後に現われる、潰瘍が舌の両側に見られる
・煩悶、怒りっぽい、胸脇苦満
・下腹部の脹痛、月経痛、
・月経不順、口が苦いなど。
舌質は紫暗
舌苔は薄黄
・加味逍遙散
・竜胆潟肝湯(怒りやすい、口が苦い、赤ら顔、目が充血)
・口内炎が繰り返されて治りにくい
・口内の粘膜は赤く乾燥し、潰瘍が小さくて痛む、あるいは小円形白斑、舌痛、
唇の乾燥感、口渇
・腰や下肢の脱カ感、手足のほてり、のぼせなど
・動悸、煩躁、精神不安、寝汗
舌質は紅、
舌苔は少ない
・六味地黄丸
・六味地黄丸+黄連解毒湯
(イライラ、ほてりが強い場合)
・口腔粘膜に多数の潰瘍、潰瘍の周囲粘膜が淡紅、腫脹、潰瘍の表面に黄色あるいは白色の偽膜を作る
・繰り返し治りにくい
・全身倦怠感、疲れやすい
・食欲不振、軟便あるいは下痢など。
舌質は淡
舌苔は白
・六君子湯
・補中益気湯(疲労倦怠感が強い)
・口腔粘膜に少数の潰瘍、潰瘍の周囲粘膜が淡紅、腫脹、潰瘍の表面が蒼白 ・腰や下肢の脱力感、寒がり、 四肢の冷え、
・下腹部の冷痛、食欲不振
・顔のむくみ、浮腫など
舌質は淡、
舌苔は白
・八味地黄丸
・八味地黄丸合人参湯
(食欲不振、下腹部の冷痛、軟便を伴う)
・神経質で胃腸が弱い、胸やけ、心窩部の膨満感があり、口内炎を繰り返すものには半夏瀉心湯を投与する
・口腔内の炎症や熱感が強い場合には黄連解毒湯を、繰り返し慢性化した場合温清飲を用いる。
・口内炎の痛みが激しい場合には甘草湯でうがいしながら服用する。

口臭によく用いる処方
黄連解毒湯、三黄瀉心湯、半夏瀉心湯、甘草瀉心湯(甘草湯+半夏瀉心湯)、六味地黄丸、麻杏甘石湯+黄連解毒湯など