2015.01.30

虫歯進行のフォローは欠かせない

『そんなに痛くないので、
様子見じゃだめですか?』

 1年ぶりに定期検診のために
受診された患者さんに
虫歯が見つかりました。

レントゲン写真上は
明らかじゃないのですが、
虫歯はエナメル質と象牙質の
境界くらいまで進行している
ことが疑われました。

でも患者さんは、
削らないでほしいと訴えます。

 どうしましょうか?

さて、そこで昨日の続きです。

虫歯を修復治療しなかったら
どうなるのか

自分自身にこう問いかけ、
修復治療した場合と
修復治療しなかった場合の
結果を推測するのだと書きました。

歯を削る修復治療をした場合、
長い年月をかけて進行する
虫歯の部分を
一瞬で取り去って
しまうことになります。

さらに、修復治療をした部位は、
また虫歯になるリスクが高くなります。

従って、初期の虫歯は
削らないで良い
というの今の考え方です。
(虫歯があることでの
審美的な問題や精神的な問題が
大きくなる場合には、
患者さんとお話し合い下、
修復治療が選択されることも
ありますが)

ただし、
どのように進行するのかを
念頭において、
何らかの介入
が行われるべきであるとは思います。

つまり早期に診断し、患者さんに
気付いてもらうことが重要です。

それにより、
原因因子をコントロールすることに
注意を向けて頂くようにします。
その時点での口腔環境を
変えることができるば、
そこで進行を止めたり、
進行速度を遅くすることができる
からです。

従って当院では、
できるだけ削らないように
するために、
虫歯を見つけたとしても、
定期検診、定期予防処置を行い、
経過を良く診てから
削るべきかどうかを判断しています。

とはいえ、この判断は非常に難しい
と感じています・・・。

2つの例を示します。

1つ目として、
修復治療を行った歯と、
修復治療を行わなかった歯の
経過が明らかに異なった例です。

上嶋_歌苗_3-001

下顎第一大臼歯近心面には、
象牙質内に広がる虫歯を認めます。
隣接する、下顎第二小臼歯の
遠心面(後ろ側)には
明らか虫歯を認めていませんが、
近接している部位は虫歯に
なっている可能性が高く、
初期の虫歯にはなっている
と考えられます。

この時点で、下顎第一大臼歯には、
修復治療を行いました。
下顎第二小臼歯に対しては、
修復治療を行っていません。

約2年後・・・

上嶋_歌苗_2下顎第二小臼歯遠心面に
象牙質内まで達する虫歯を認めます。
修復治療を行なった
下顎第一大臼歯は変化がありません。

さらに1年半後・・・

上嶋_歌苗_1下顎第二小臼歯遠心面から
歯髄まで達するような
深い虫歯となっています。
修復治療を行なった
下顎第一大臼歯は変化がありません。

この時点では、
下顎第二小臼歯の治療は、
抜髄(神経の治療)となる
可能性が高く、それを
避けるために早い時点での
修復治療がなされるべきでした。

2つ目です。

先日、当院に約3年ぶりに
来院された患者さんを
診させてもらったところ、
深い虫歯を認めました。

 3年前にも象牙質内に進行した
虫歯が認められていましたが、
自覚症状がないこともあり、
患者さんとの話合いの下、
定期検診・予防処置で
経過を診ていくことにしました。

中村_智恵美_2

そのまま何もせずに約3年後・・・

先日診させてもらったときには、
虫歯は歯髄(神経)に
近接するほど進行していました。

中村_智恵美_1-001

今後、虫歯の進行速度は
どんどん早くなり、
近いうちに歯髄(神経)に
到達することが予想されます。

 3年前にはまだ時間的に
猶予があり、
修復治療をするか
どうかを経過を診ながら判断する
ことも良かったのかもしれませんが、
その後に患者さんの経過を
フォローできないのであれば、
その時点で修復治療を
行なうべきだったかもしれません。

 初期の虫歯は安易に
削ってはいけないと思いますが、
削るのか削らないのかの判断は、
多くの要素を考慮する必要があり、
非常に難しい判断です。

私達は、
患者さんのできるだけ
削られたくないという思いに
応えることと、

患者さんの口腔内の未来を予測し、
個々の患者さんにとって
最善の良い方向に導くこと、

その両方を考えなければなりません。

 そのために、私達臨床家は、
修復治療を選択しなかった場合、
あるいは修復治療を選択した場合の
臨床疫学的なデータ(エビデンス)
を知ることや、
リアルワールドでの
自身のケースを振り返ることで、
日々判断力を高めていかなければなりません。

 

参考文献)

ペンクト・オロフ/ダン・エリクソン 著 西真紀子 訳.スウェーデンのすべての歯科医師・歯科衛生士が学ぶトータルカリオロジー.

2015.01.29

虫歯はどのように進行するのか?

『出来るだけ
削らないでほしい・・・』

多くの患者さんは、
虫歯で歯を削られることは
嫌だと思います。

私もできるだけ
削りたくないと思っています。

 昨日、当院では、
ウ窩の存在とレントゲン写真の
陰影がある場合には、
削ることを選択すると
書きましたが、
実際には、
削るか削らないかの判断は、
非常に難しい場合があります。

私は、虫歯を削り修復するか
どうかの判断に直面した場合には、
常に自分に対して、
ある問いかけを行うようにしています。

その1つが、
『もし、何もしなかったら
どんなことが起こるのだろうか?』
というもの。

この問いは、
私達が医療行為を行う上で
非常に重要だと思います。

自分が行う介入が、
何もしなかった場合よりも、
その患者さんにとって
良い結果が得られるかどうか
を考えるために必ず必要となるからです。

『もし、何もしなかったら、
どんなことが起こるのだろうか?』

今日は、この問いについて
考えていきたいと思います。

意外かもしれませんが、
医療者は、病気の
自然経過をあまり知らない
と言われることがあります。
その病気を放っておいたら
どうなるかということです。

医療者は、病気を発見した時点で
治療介入をすることが多く、
治療した場合の様子を
診ていることが多いからです。

虫歯の場合を考えてみます。

虫歯は放っておいたらどうなるのか?

虫歯治療を行なうときには、
私達はこのことを知らなければいけません。

放っておいたら
進行するに決まっている。
何を馬鹿なことを言っているんだと
怒られそうですが、
そこまで単純なことではありません。

自分たちの介入が特に、
削って修復治療をするような、
患者さんにとって
リスクのある治療の場合には、
その行為が患者さんにとって、
何もしないよりも
良い結果をもたらすかどうか
を十分に考える必要があります。

そのために、虫歯がどのように
進行するのかを知らなければ
いけないということです。

臨床的あるいは
レントゲン写真により、
最初に小さな虫歯が
認められたときには、
すでにその虫歯は、
長い間口腔内や
レントゲン(X線)写真で
気付かれないまま
進行し続けていたこと
を意味しています。

虫歯が始まったところから、
臨床的にまたはレントゲン写真上、
目で見て分かるようになるまでに
長い時間がかかっています。

その虫歯が発見された時点から、
そこで進行を止めたり、
慢性化させたりできます。

 しかし、そこからさらに
進行することもあります。

その虫歯が小さく
ウ窩となっていなければ、
進行を遅くすることができます。

では一般的に虫歯は
どのくらいの速さで
進行するのでしょうか?

この問いに対して、
27歳までの若年者を対象にして、
虫歯がどのくらい早く進むのかを
調べた研究が
スウェーデンで
行われました。

この研究では、
エナメル質に最初の虫歯が
認められてから、
象牙質内にそれが進行するまで、
約8年(中央値)かかり、
そこから
象牙質の厚さ1/2を超えるまでには、
約3.4年(中央値)かかる
とされています。

さらに、進行速度にとって
重要だと明らかにされたのは、
①患者さんの年齢
 若いほど速い。

②初期虫歯の存在
 患者さんに初期虫歯が多いほど
進行するリスクが高い。

③歯面
 上顎第二小臼歯の遠心面で早く、
上顎第一大臼歯の遠心面で遅い
という結果がでているが
 この理由は不明であると。

もちろん、個々の患者さんの虫歯の
リスクも検討しなければなりませんが、
私は、虫歯の修復治療をするかどうか
の判断に直面したときには、
その虫歯が修復治療をしなかったら
どのように進行をするのかを自身に問いかけ、

自分がその虫歯を削り
修復治療をした方が、
削らない場合よりも
良い結果が得られるかどうか

を考えるのです。

参考文献)

ペンクト・オロフ/ダン・エリクソン 著 西真紀子 訳.スウェーデンのすべての歯科医師・歯科衛生士が学ぶトータルカリオロジー.

2015.01.28

虫歯は削らなければいけない?

『歯医者に行ったら
虫歯だと言われて削られた・・・』

こんなふうにおっしゃる患者さんは
少なくありません。
誰でも歯を削られるような治療は、
嫌だと思います。

特に痛みなどの
自覚症状がない場合には、
削られたくない気持ちも
強いのではないかと思います。

そのような場合、
歯科医師が一方的に
虫歯を指摘し、
何も言わずに
削る治療を
開始したとしたら、
患者さんは、疑問に思って
しまうかもしれません。

だとすると、
『歯医者に行ったら
虫歯だと言われて削られた・・・』
の・・・には次のような思いが
含まれているように感じます。

(本当に削る必要があったのか・・・)

(痛みもないし何も
困っていなかったのに・・・)

 そんなふうに思ったことは
ないでしょうか?

虫歯治療は、歯科医院で
日常的に行っている処置です。

実際の所、自分自身も
虫歯治療で出来るだけ
削られたくありませんし、
削ることが好きなわけでも
ありません。

私達がどのような
虫歯治療をするのかは、
虫歯の深さと進行速度
によって変わってきます。

現在は、
できるだけ虫歯は削らずに
管理(マネジメント)しよう
という時代になってきています。

当院でも、できるだけ
削らないようにするために、
虫歯を見つけても定期的な検診、
予防処置を行い、
経過を良く診てから、
削るべきかどうかを
判断しています。 

虫歯を診断するときに、一般的に
臨床診査(視診)
レントゲン(X線)写真 
組み合わせて行うことが多いです。

まず、削るような虫歯治療を
するかどうかの判断で重要なのは、
ウ窩(穴になっている状態)の存在 です。

歯面が破壊され
ウ窩が形成されていると、
進行速度は上がります。
表層にウ窩が無い状態ならば、
進行を止めて経過を
診ることができますので、
この評価は重要となります。

ウ窩の有無だけで
判断するわけではありませんが、
例えば、次の写真のような
大きなウ窩のある歯の場合には
削る治療が必要
と判断します。

古野_亮_7

レントゲン(X線)写真では、
虫歯になった所が、
黒い影となって見えます。
これは、歯の無機質の量が
減少することで
X線透過度が上がるからです。

古野_亮_1

臨床において、削るような虫歯治療を
すべきかどうかを決定するためには、
前回撮影したレントゲン(X線)写真
と比較して、
深さや位置の変化などを
確認することが必要になります。

ただし、
歯の無機質の減少量の
30%を越さないと、
レントゲン(X線)写真で
黒い影として確認できない
と言われていますので、
当院では、
他の検査方法も組み合わせることで、
早期の診断を心掛けています。
(虫歯早期診断のための検査方法に
ついてはまた別の機会に記載したいと思います。)

当院では、
進行が認められるような
すべての虫歯において、
処置の対象としていますが、
すべてに削って修復する治療が
必要なわけではありません。

削るかどうかの判断は
非常に難しいのですが、
当院では今のところ、
明らかにウ窩を認める
なおかつ、
レントゲン(X線)写真上
陰影を認める虫歯
の場合には、
削る治療を選択しています。

この場合、
虫歯になっている部分(感染歯質)
を除去して修復する
という処置を行います。

参考文献)

ペンクト・オロフ/ダン・エリクソン 著 西真紀子 訳.スウェーデンのすべての歯科医師・歯科衛生士が学ぶトータルカリオロジー.

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