2015.03.16

歯髄(神経)を取るか取らないか?

『虫歯が深いので
歯髄(神経)を取りますね』

歯科医院で虫歯治療を
受けていて
そのように
言われた事はありませんか?

 歯科医師は、
どのように歯髄(神経)を
取るか取らないかを
判断しているのでしょうか?

 実際、歯髄(神経)を
どこまで保存するべきかは
非常に難しい問題です。

 虫歯が進行し、
歯髄(神経)に近づくにつれて、
歯髄(神経)に炎症が起こります。

この状態を歯髄炎と
言いますが、
臨床的には、

可逆性歯髄炎(神経が元に戻る状態)なのか、

不可逆性歯髄炎(神経が元に戻らない状態)なのか、

その診断が重要となります。

可逆性歯髄炎(神経が元に戻る状態)ならば、
歯髄保存療法(神経を取らない治療)が
選択されますし
不可逆性歯髄炎(神経が元に戻らない状態)ならば、
歯髄除去療法(神経を取る治療)が選択されます。

可逆性か不可逆性かについて、
基本的には、歯髄(神経)の生死、
急性症状(自発痛や持続時間の長い誘発痛)の有無、
露髄(神経の露出)の有無
で判断しています。

痛みが重要な診断基準となりますので、
どのような痛みがあるのか、
あるいは痛みが無いのかを
患者さんに必ず尋ねます。

拍動性の自発痛(何もしなくても
ズキズキと脈打つような痛み)があり、
夜も眠れないような場合には、
不可逆性歯髄炎(神経が元に戻らない状態)
の可能性が高まります。

その他にも、
持続時間の長い誘発痛(熱い物を
食べた後に痛みが続く)や、
打診痛、咬合痛がある場合には、
歯髄(神経)保存に不利な因子となります。

実際の例を示します。

この患者さんは、
右下奥歯に拍動性の自発痛
(何もしなくてもズキズキと脈打つような痛み)
を訴えていました。

視診とレントゲン写真で
右下第一大臼歯に深い虫歯を認めました。

川原_有紀子_9

川原_有紀子_11

麻酔を行い、メタルインレー(金属の詰め物)を除去しました。

川原_有紀子_8

詰め物の下で虫歯になっているというようりも、隣接面からの虫歯が進行したようです。

隣接面を削って虫歯の部位が良く見えるようにします。

川原_有紀子_6

う蝕検知液によって感染歯質(虫歯になっている歯質)を染め出します。

川原_有紀子_7

歯髄(神経)を保存するにしても、
除去するにしても、
感染歯質は慎重に取っていかなければなりません。

露随(神経の露出)することなく、
感染歯質を取り切ることができれば、
歯髄(神経)を保存できる
可能性が高まります。

露髄(神経の露出)するとしても、
感染歯質をしっかり除去しながら
歯髄(神経)にアプローチした方が、
歯髄(神経)に混入する細菌数を
減らすことができると考えます。

まだまだう蝕検知液によって
赤く染め出されていますので、
染まらなくなるまで感染歯質を除去します。

川原_有紀子_5ところが、感染歯質除去途中に
、露髄(神経の露出)してしまいました。
(点状に赤く見える部位)

自発痛があり、
感染歯質内の露髄(神経の露出)が
ありますので、
この歯は残念ですが、
歯髄除去療法(神経を取る治療)を選択しました。

冠部歯髄(上部の神経)を除去した所です。

川原_有紀子_3

根管内の歯髄(神経)を除去し、拡大形成を行った後です。

川原_有紀子_2

歯髄(神経)を除去すると、
痛みはすぐに取れますが、
歯は脆くなってしまいます。

できるだけ歯髄(神経)は残した方が
良いと考えていますので、
歯髄(神経)を取るか取らないかは慎重に判断します。

 

もう一つの例を示します。
この患者さんも、
右上奥歯に拍動性の自発痛
(脈打つようなズキズキした痛み)を
訴えていました。

視診、レントゲン写真で、
右上第一大臼歯に深い虫歯を認めました。

村部_弘幸_6

 

村部_弘幸_11

メタルインレー(金属の詰め物)を除去し、

 村部_弘幸_5

う蝕検知液を使用しながら、

村部_弘幸_3

慎重に感染歯質を除去しました。

村部_弘幸_2

その結果、露髄(神経の露出)を認めず、

可逆性歯髄炎(神経が元に戻る状態)と判断しました。

この判断に不確実性はありますが、
まだ20代前半の若い方ということもあり、
歯髄保存療法(神経を取らない治療)を
選択しました。
年齢が若いというのも、
歯髄(神経)を保存するための
有利な因子となります。

患者さんご自身は、
また強い痛みが出るかもしれないという
恐怖からか、
もう歯髄(神経)を取って
ほしいと望んでいましたが、
歯髄(神経)保存のメリットを十分にご説明し、
納得して頂いたので、歯髄(神経)を保存しました。

医療行為における意思決定に関しましては、
患者さんの思いや価値観は非常に重要ですが、
より最善の方法を提案するのも
私達専門家の役割だと思いますので、
歯髄(神経)を取ってほしいという
患者さんのご希望はありましたが、
十分ご相談した上で、
歯髄保存療法(神経を取らない治療)
に入りました。

歯髄(神経)を取るか取らないか、
その臨床的な判断基準はありますが、
病理組織検査のような
確定診断をすることができず、
主に患者さんの痛みという
主観的な基準に頼る部分も多いので、
非常に難しい問題ですね。

 

※この記事は一部、
内容が古くなってきています。
基本的な変わらない部分もありますが、
診療技術は年々変わってきています。
当院では現在、できるだけ
歯髄(神経)を保存するために
感染歯質の段階的除去を行ったり、
あるいは、感染歯質除去段階で
露髄したとしても、歯髄保存療法を
試みることも多いです。
すべてが成功するわけでは
ありませんが、生きている歯髄(神経)
を取ること(抜髄)はあまりしなく
なっています。
その時々の、等身大の情報を載せていく
ことが大事だと考えていますので、
この記事を消すことはしませんが、
本テーマにつきましては、
また新しく記事を更新していく予定です。
宜しければそちらもご覧ください。
もしもご不明な点やご意見などありましたら
ご連絡ください。

医療法人OMSB 中垣歯科医院
副院長 内藤俊幸

関連記事)
2019.10.06  根管治療をするのかしないのか?
2019.11.23   神経の治療(根管治療)するかどうかを迷うとき

2015.01.28

虫歯は削らなければいけない?

『歯医者に行ったら
虫歯だと言われて削られた・・・』

こんなふうにおっしゃる患者さんは
少なくありません。
誰でも歯を削られるような治療は、
嫌だと思います。

特に痛みなどの
自覚症状がない場合には、
削られたくない気持ちも
強いのではないかと思います。

そのような場合、
歯科医師が一方的に
虫歯を指摘し、
何も言わずに
削る治療を
開始したとしたら、
患者さんは、疑問に思って
しまうかもしれません。

だとすると、
『歯医者に行ったら
虫歯だと言われて削られた・・・』
の・・・には次のような思いが
含まれているように感じます。

(本当に削る必要があったのか・・・)

(痛みもないし何も
困っていなかったのに・・・)

 そんなふうに思ったことは
ないでしょうか?

虫歯治療は、歯科医院で
日常的に行っている処置です。

実際の所、自分自身も
虫歯治療で出来るだけ
削られたくありませんし、
削ることが好きなわけでも
ありません。

私達がどのような
虫歯治療をするのかは、
虫歯の深さと進行速度
によって変わってきます。

現在は、
できるだけ虫歯は削らずに
管理(マネジメント)しよう
という時代になってきています。

当院でも、できるだけ
削らないようにするために、
虫歯を見つけても定期的な検診、
予防処置を行い、
経過を良く診てから、
削るべきかどうかを
判断しています。 

虫歯を診断するときに、一般的に
臨床診査(視診)
レントゲン(X線)写真 
組み合わせて行うことが多いです。

まず、削るような虫歯治療を
するかどうかの判断で重要なのは、
ウ窩(穴になっている状態)の存在 です。

歯面が破壊され
ウ窩が形成されていると、
進行速度は上がります。
表層にウ窩が無い状態ならば、
進行を止めて経過を
診ることができますので、
この評価は重要となります。

ウ窩の有無だけで
判断するわけではありませんが、
例えば、次の写真のような
大きなウ窩のある歯の場合には
削る治療が必要
と判断します。

古野_亮_7

レントゲン(X線)写真では、
虫歯になった所が、
黒い影となって見えます。
これは、歯の無機質の量が
減少することで
X線透過度が上がるからです。

古野_亮_1

臨床において、削るような虫歯治療を
すべきかどうかを決定するためには、
前回撮影したレントゲン(X線)写真
と比較して、
深さや位置の変化などを
確認することが必要になります。

ただし、
歯の無機質の減少量の
30%を越さないと、
レントゲン(X線)写真で
黒い影として確認できない
と言われていますので、
当院では、
他の検査方法も組み合わせることで、
早期の診断を心掛けています。
(虫歯早期診断のための検査方法に
ついてはまた別の機会に記載したいと思います。)

当院では、
進行が認められるような
すべての虫歯において、
処置の対象としていますが、
すべてに削って修復する治療が
必要なわけではありません。

削るかどうかの判断は
非常に難しいのですが、
当院では今のところ、
明らかにウ窩を認める
なおかつ、
レントゲン(X線)写真上
陰影を認める虫歯
の場合には、
削る治療を選択しています。

この場合、
虫歯になっている部分(感染歯質)
を除去して修復する
という処置を行います。

参考文献)

ペンクト・オロフ/ダン・エリクソン 著 西真紀子 訳.スウェーデンのすべての歯科医師・歯科衛生士が学ぶトータルカリオロジー.

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