2019.10.12

歯根が割れているとはどんな状態か?

「歯根が割れているから
抜かないといけません。」

歯科医からこのように
言われたことがあるかもしれません。

歯根が割れているというのは
どんな状態でしょうか?

色んな割れ方がありますが、
もし歯科医がそんなに迷いなく
歯を抜くことをお勧めするなら
垂直的に割れている可能性が高いです。

下の写真のような感じです。

歯根の真ん中に
縦に亀裂線が入っているのが
わかるでしょうか?

このような状況であると
良い状態で歯を使うことが
難しいので歯科医から
歯を抜くことをお勧めされると思います。

でも割れているかどうかを
歯科医は一体どうやって
判断しているのでしょうか?

2019.10.06

根管治療するのかしないのか?

根管治療をするのかしないのか。

正直なところ、
できるだけ根管治療は
したくありません。

根管治療をすることなく、
歯髄(俗にいう神経)を
できるだけ残して、
歯を生かすことが
とても重要だと
考えているからです。

だから私は、
歯髄が生きているときに行う
根管治療(抜髄という)は
できるだけ避けたいと思っています。
可能性がある限り
できるだけ神経を残したい。

とはいえ、
かかりつけ歯科医として
患者さんと向き合っていて、
根管治療を避けて通ることは
今のところできません。

根管に感染がすすみ、
歯髄が死んでしまって、
感染が広がってしまったら、
根管治療を行う必要があります。

そのときは、
根管治療を行うことを
覚悟しなければなりません。
そのまま放置していると、
細菌感染がどんどん進んでいく
可能性がありますので。

例えば次のようなケース。

2017年時点の状態はこれ。


歯髄に近いところで深く、
つめ物が入っていますが、
特別問題はないように
みえましたので、
そのまま何もしていませんでした。
患者さんも何も症状は
訴えられていませんでした。

ところが2018年時点ではこれ。


あきらかに右下第一大臼歯
(真ん中に写っている歯)
の周りの骨が無くなってきています。
歯肉からは膿も出ていました。

歯髄も死んでおり、
周りの骨が無くなっているのも
根管の細菌感染が拡がっていることが
原因だと考えられました。
このまま放置しても
感染が拡がる一方ですので、
やむなく根管治療を
行うことにしました。

そして2019年点ではこれ。
(治療1年後くらい)


無くなっていた骨は
元に戻ってきています。
治療の経過は良好です。
歯肉から膿も出ていませんし、
患者さんの自覚症状は
何もありません。

できるだけ根管治療は避けたい。
でも根管治療をしなければ
助からない場合もある。

根管治療をするのかしないのか。

例にあげたケースでは、
2018年時点のような
明らかに細菌感染が
拡がっている場合には、
根管治療をしなければなりません。

ただ2017年時点で
根管治療をすると決断することは
とても難しいと思います。
厳密にいったら、
この時点で細菌感染は進んで
いたのだとは思いますが。
それは結果論ですね。

だから、
ある一時点で判断するよりも、
経過を診ながら、比較によって
判断していることが多いです。

2015.03.16

歯髄(神経)を取るか取らないか?

『虫歯が深いので
歯髄(神経)を取りますね』

歯科医院で虫歯治療を
受けていて
そのように
言われた事はありませんか?

 歯科医師は、
どのように歯髄(神経)を
取るか取らないかを
判断しているのでしょうか?

 実際、歯髄(神経)を
どこまで保存するべきかは
非常に難しい問題です。

 虫歯が進行し、
歯髄(神経)に近づくにつれて、
歯髄(神経)に炎症が起こります。

この状態を歯髄炎と
言いますが、
臨床的には、

可逆性歯髄炎(神経が元に戻る状態)なのか、

不可逆性歯髄炎(神経が元に戻らない状態)なのか、

その診断が重要となります。

可逆性歯髄炎(神経が元に戻る状態)ならば、
歯髄保存療法(神経を取らない治療)が
選択されますし
不可逆性歯髄炎(神経が元に戻らない状態)ならば、
歯髄除去療法(神経を取る治療)が選択されます。

可逆性か不可逆性かについて、
基本的には、歯髄(神経)の生死、
急性症状(自発痛や持続時間の長い誘発痛)の有無、
露髄(神経の露出)の有無
で判断しています。

痛みが重要な診断基準となりますので、
どのような痛みがあるのか、
あるいは痛みが無いのかを
患者さんに必ず尋ねます。

拍動性の自発痛(何もしなくても
ズキズキと脈打つような痛み)があり、
夜も眠れないような場合には、
不可逆性歯髄炎(神経が元に戻らない状態)
の可能性が高まります。

その他にも、
持続時間の長い誘発痛(熱い物を
食べた後に痛みが続く)や、
打診痛、咬合痛がある場合には、
歯髄(神経)保存に不利な因子となります。

実際の例を示します。

この患者さんは、
右下奥歯に拍動性の自発痛
(何もしなくてもズキズキと脈打つような痛み)
を訴えていました。

視診とレントゲン写真で
右下第一大臼歯に深い虫歯を認めました。

川原_有紀子_9

川原_有紀子_11

麻酔を行い、メタルインレー(金属の詰め物)を除去しました。

川原_有紀子_8

詰め物の下で虫歯になっているというようりも、隣接面からの虫歯が進行したようです。

隣接面を削って虫歯の部位が良く見えるようにします。

川原_有紀子_6

う蝕検知液によって感染歯質(虫歯になっている歯質)を染め出します。

川原_有紀子_7

歯髄(神経)を保存するにしても、
除去するにしても、
感染歯質は慎重に取っていかなければなりません。

露随(神経の露出)することなく、
感染歯質を取り切ることができれば、
歯髄(神経)を保存できる
可能性が高まります。

露髄(神経の露出)するとしても、
感染歯質をしっかり除去しながら
歯髄(神経)にアプローチした方が、
歯髄(神経)に混入する細菌数を
減らすことができると考えます。

まだまだう蝕検知液によって
赤く染め出されていますので、
染まらなくなるまで感染歯質を除去します。

川原_有紀子_5ところが、感染歯質除去途中に
、露髄(神経の露出)してしまいました。
(点状に赤く見える部位)

自発痛があり、
感染歯質内の露髄(神経の露出)が
ありますので、
この歯は残念ですが、
歯髄除去療法(神経を取る治療)を選択しました。

冠部歯髄(上部の神経)を除去した所です。

川原_有紀子_3

根管内の歯髄(神経)を除去し、拡大形成を行った後です。

川原_有紀子_2

歯髄(神経)を除去すると、
痛みはすぐに取れますが、
歯は脆くなってしまいます。

できるだけ歯髄(神経)は残した方が
良いと考えていますので、
歯髄(神経)を取るか取らないかは慎重に判断します。

 

もう一つの例を示します。
この患者さんも、
右上奥歯に拍動性の自発痛
(脈打つようなズキズキした痛み)を
訴えていました。

視診、レントゲン写真で、
右上第一大臼歯に深い虫歯を認めました。

村部_弘幸_6

 

村部_弘幸_11

メタルインレー(金属の詰め物)を除去し、

 村部_弘幸_5

う蝕検知液を使用しながら、

村部_弘幸_3

慎重に感染歯質を除去しました。

村部_弘幸_2

その結果、露髄(神経の露出)を認めず、

可逆性歯髄炎(神経が元に戻る状態)と判断しました。

この判断に不確実性はありますが、
まだ20代前半の若い方ということもあり、
歯髄保存療法(神経を取らない治療)を
選択しました。
年齢が若いというのも、
歯髄(神経)を保存するための
有利な因子となります。

患者さんご自身は、
また強い痛みが出るかもしれないという
恐怖からか、
もう歯髄(神経)を取って
ほしいと望んでいましたが、
歯髄(神経)保存のメリットを十分にご説明し、
納得して頂いたので、歯髄(神経)を保存しました。

医療行為における意思決定に関しましては、
患者さんの思いや価値観は非常に重要ですが、
より最善の方法を提案するのも
私達専門家の役割だと思いますので、
歯髄(神経)を取ってほしいという
患者さんのご希望はありましたが、
十分ご相談した上で、
歯髄保存療法(神経を取らない治療)
に入りました。

歯髄(神経)を取るか取らないか、
その臨床的な判断基準はありますが、
病理組織検査のような
確定診断をすることができず、
主に患者さんの痛みという
主観的な基準に頼る部分も多いので、
非常に難しい問題ですね。

 

※この記事は一部、
内容が古くなってきています。
基本的な変わらない部分もありますが、
診療技術は年々変わってきています。
当院では現在、できるだけ
歯髄(神経)を保存するために
感染歯質の段階的除去を行ったり、
あるいは、感染歯質除去段階で
露髄したとしても、歯髄保存療法を
試みることも多いです。
すべてが成功するわけでは
ありませんが、生きている歯髄(神経)
を取ること(抜髄)はあまりしなく
なっています。
その時々の、等身大の情報を載せていく
ことが大事だと考えていますので、
この記事を消すことはしませんが、
本テーマにつきましては、
また新しく記事を更新していく予定です。
宜しければそちらもご覧ください。
もしもご不明な点やご意見などありましたら
ご連絡ください。

医療法人OMSB 中垣歯科医院
副院長 内藤俊幸

関連記事)
2019.10.06  根管治療をするのかしないのか?
2019.11.23   神経の治療(根管治療)するかどうかを迷うとき

2015.03.01

補綴物(被せ物)が合っていないときは?


『もう一度型取りをさせて下さい。
 

補綴物(被せ物)が完成し、
患者さんにその補綴物(被せ物)を
入れるときに、
その日、歯が入ると
思っている患者さんの期待を
裏切ってしまうことがあります。

大変申し訳ないのですが、
補綴物(被せ物)が合っていない場合には、
もう一度お時間を頂いております。

補綴物(被せ物)が合っていないとは、
辺縁(マージン)が合っていないこと、
色があっていないこと、
隣との歯の接触具合が弱いこと、
咬み合わせが大きくずれていること、
形が明らかにおかしいことなど、
色々とあります。

明らかにおかしい場合は
やり直しは当然なのですが、
患者さんにこれで良いと
言われたときには
ご理解を頂くために十分に
ご説明しなければなりません。

やり直しに関しましては、
もう一度型取りをするご負担や、
再度来院して頂くご負担なども
ありますので、
自分自身の好みや
エゴだけで決めるわけにもいきません。

さらにご予約頂いていた時間も延長し、
次のご予約を頂いている患者さんを
お待たせしてしまうことにも
なりかねません。

ただそのとき自分に提供できる
ベストを尽くすべきだと考えますので、
やり直しした方が良いと思えば
そのようにお伝えさせて頂き、
再度お時間を頂いております。
(そして次のお待たせした
患者さんにも謝ります。)

ではどんな時にやり直しを
させて頂くかの例ををお示しします。

右上側切歯の
硬質レジン前装冠(保険適応)の場合です。

妹尾_真吾_2

 

右上側切歯

右上側切歯

 

左上側切歯

左上側切歯辺縁(マージン)の不適合と色が他の歯に比べて少し白いのが分かります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マージンとは補綴物の
縁のことを指しています。
ここでは、硬質レジン前装冠の縁と
歯肉に隙間が認められます。

左上側切歯の硬質レジン冠も
依然に当院で作製したものですので、
それと比べても白く、
さらに辺縁(マージン)部が
合っていないのが分かります。

患者さんからは、
気にならないからこれで良いと
おっしゃって頂きましたが、
ご説明をしてもう一度
やり直しをさせて頂きました。

前歯部なので、
審美的な問題と、
辺縁(マージン)部が不適合だと、
そこにプラークが溜まりすい、
セメント溶出が起こりやすい
などにより、
虫歯や歯周病が
進行しやすくなる可能性があります。

またこの被せ物(硬質レジン前装冠)の
維持期間も短くなる可能性が
ありますので、
修正させて頂く
ことをご説明しました。

やり直し修正したものが次の写真です。

妹尾_真吾_11

修正後

 

右上側切歯(修正後)

右上側切歯(修正後)

右上側切歯(修正前)

右上側切歯(修正前)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修正前に比較して修正後は、
辺縁(マージン)部の適合と、
色合いが改善されました。

この辺縁(マージン部)の設定に
ついてですが、
前歯では、
審美性の観点から、
歯肉縁下0.5mmあるいは
正常な歯肉溝の1/2に設定
するようにしています。

歯肉縁上になると、
修成前のように
歯肉と
硬質レジン前装冠の間に
隙間があるように
見えてしまいますので、
審美性が落ちてしまいます。
歯肉縁下にマージンを設定すると
色々な難点が増えますが、
その一つとして型取りをするのが
難しくなり、
やり直しを
しなければならない可能性が
高まります。

そうならないように
一つ一つのステップを
きちんと行うように心掛けています。

ただ、
もし完成した補綴物(被せ物)が、
その歯や補綴物の予後や審美性に
関わる場合には、
再度お時間を頂き
修正させて頂くことがあることを
ご了承頂けたら嬉しく思います。

 

参考文献)

齋藤 淳,佐藤 亨:クラウンのマージンはどこに設定すればよいのか教えてください.歯科学報,112(5): 647-650,2012

Newman MG et al. ed):Restorative interrelationships. Carranza’s Clinical Periodontology, 11th ed. Elsevier Saun- ders, St. Louis, p.610~614,2012.

2015.02.20

根尖病変の悪化と改善を考える

『歯茎が腫れて膿みが
出てくるのですが・・・。』

定期検診を受けて
頂いている患者さんでも、
そのような状況になって
しまうことはあります。

歯茎が腫れる原因は
様々なものがありますが、
根尖病変(歯の根の病気)の
悪化によるものも少なくありません。

しかし、根尖病変の悪化の予測は
非常に難しい場合があります。
次のような例を示します。
左下6番(第一大臼歯)の経過に
注目してください。

2007年5月に撮った
レントゲン写真では、
近心に虫歯が認められています。

田村_雄輔_1

2009年10月のレントゲン写真です。
修復の再治療が行われ、
メタルインレーの範囲が
広くなっているのが分かります。

田村_雄輔_2

2011年5月のレントゲン写真です。
若干歯根膜腔の拡大が
あるように見えますが、
明らかな虫歯は認められず、
患者さんの自覚症状も
ありませんでしたので
経過観察としていました。

田村_雄輔_3

2012年6月のレントゲン写真です。
近遠心根尖ともに、
陰影を認めています。
この時点で患者さんの
自覚症状(歯肉腫脹と排膿)も
出現していました。

田村_雄輔_4

これらの経過を診ると、
2007年から2012年の
約5年間に虫歯はどんどん進行し、
根尖病変を引き起こしてきた
ことが分かります。
ただ、これを予め予測できるか
といったら
非常に難しいのが
正直な所だと思います。

中垣歯科医院では、
一年に一度のレントゲン
写真撮影を推奨し、
レントゲン写真の経年比較によって、
現状を把握したり、
未来を予測したりしています。

上記のような根尖病変の
悪化に関しても、
経年比較をすることで、
その歯がどのような予後を
たどるかを推測していきます。

そして治療介入を行うことが、
行わないよりも良い結果と
なるかを十分に検討し、
根管治療の介入を行います。

この方の場合には、
自覚症状が出た時点で
根管治療を行いました。

その後の経過を示します。

2014年1月(根管治療後1年)の
レントゲン写真です。

若干オーバー根充されていますが、
根尖病変の改善が認められています。
自覚症状もありません。

田村_雄輔_5

2015年2月(根管治療後2年)の
レントゲン写真です。
根尖病変は認めず、
自覚症状もないため、
経過は良好です。

この時点では、
治療介入により良い結果
が出ているかと思います。

田村_雄輔_6

 

もう一例お示しします。

次に示すのは、
既に根管治療をされている
左下7番(第二大臼歯)の経過です。

2007年12月来院時の
レントゲン写真では、
明らかな根尖病変は認めず、
自覚症状もありませんでした。

笹井_昌樹_55

2011年6月来院時の
レントゲン写真では、
明らかな根尖病変を認めましたが、
自覚症状はないため、
患者さんと話し合いの下、
経過観察となりました。

笹井_昌樹_44

しかし、その1年後(2012年7月)には、
その部位の歯肉腫脹と疼痛を
訴えて来院されました。
レントゲン写真でも、
根尖病変は広がりを認めました。

笹井_昌樹_33

明らかに増悪傾向にありましたので、
この時点で再根管治療を行いました。

2013年11月(治療後1年)の
レントゲン写真では、
根尖病変は改善されています。
若干近心根の歯根膜腔拡大を認めます。

笹井_昌樹_22

さらに2014年11月(治療後2年)の
レントゲン写真では、
さらに
歯根膜腔の拡大があるようにみえますが、
患者さんの自覚症状もなく、
治療後まだ2年であるため、
経過観察としています。

笹井_昌樹_11

このような二例でお示し
しましたように、
根管治療を行う場合には、
経過をフォローし、
治療することによって、
治療しない場合よりも
良くなるかどうかを
十分に検討してから
行うようにしています。

 

関連記事)

2019.10.06  根管治療をするのかしないのか?

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